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■2009/08/13〜17

大深沢源流釣行

参加者:松村、金田(記)

お盆〜ん♪に休みが取れるのは15年ぶりである。
そんな大切な休みをどこに使うか?それは、源流に魅せられた男たるもの選択肢は一つ「どこの沢に行くか?」だけである。

最初に思い浮かんだのは「黒部源流」であったが、お盆は銀座状態だという事と焚火が出来ないという理由により保留となってしまった。
そんな中話題に上がってきたのが秋田の名渓「大深沢」である。
2009渓流にも大きく紹介された沢だったが、源流までの入渓が困難な事から魚影がとても濃いという事であった。
「魚影が濃い」というのは何を指すのか?
我らの下田顧問から一言
「大深沢は岩魚を蹴飛ばしながら渡渉しなければならんのだよ」と。
い!?いわなが沢からはみ出ちゃっているってことですか?

12日の仕事を早々と片付け2230、期待を膨らませながら会の先輩である松村さんと合流した。
しかしその日はお盆のピーク。渋滞のピーク。


静岡全体を揺さぶった震度6の地震から東名高速が使えなくなり、その何割かが他の動脈線に流れ込んでしまう予想も容易にできた。
それでも我らの目的地は変わらず東北道に突っ込んで行った。はみ出している岩魚を夢見て勢いよく東北道へ突っ込んで行ったのは良いが、すぐにノロノロ渋滞運転となってしまった。
テールランプの赤い色がうねりながら続いている。時々点滅する赤い光が眠気を誘う。
まだ500キロも残っている。まだ450キロも、、、。
赤い光の本流からSAへ入る支流には、入りきれずにはみ出している赤、赤、赤。
大深沢の岩魚もこれくらいはみ出しているのだろうか?
残り350キロ。僕は赤い光の帯の一部となってから8時間が経過したのを確認した後、何度かの強く放つ赤い光を確かめて眠りに落ちた。

目が覚めた。これまでとは全く異なるエンジン音。
疲れを感じさせながらも快調にアクセルをふみこむ松村さん。
渋滞を抜けて山形のどこかを走っていた。
暗く長い赤の光を抜けて、朝日の明るさに混じり時より大粒の雨がフロントガラスを洗っている。
ナビは残り150キロを表示し、出発してから既に11時間が経過していた。
もうすぐ松尾八幡IC。目的地に近付くにつれ激しさを増す風と雨。
天気予報では「弱雨」。少々の期待を持ち走り続けるも、空の色に比例して強弱を付けて降る雨は止む気配をまったく見せずに山肌を流れ、大渋滞を抜けて弱っている我々の心に新たな不安を刻みこんで来る雨となっていた。

松尾八幡ICを降り、とりあえず不足分の食糧と酒を買い込み、とりあえず、とりあえず、という合言葉を交わしながら入渓点の確認に向うが、途中途中に見える川はこれまでに溜まった何かを全て吐き出している最中の濁流に変わっていた。
そんな中標高1000mの入渓点だけがクリーンなはずもなく、キャラメル色の流れを見つめながら雨に打たれる男二人がボー然と立ち尽すのみだった。
「どうしようか?」


「とりあえず写真でも撮って会に報告入れときゃなきゃですね」
「そうだね。予想してなかった訳でもないしのんびり行こうよ。近くに凄く良い湯治温泉宿があるよ。とりあえず今日はそこに泊って様子を見ようか?」
「そうっすね、、、、。」
松村さんは手慣れた動きで「後生掛温泉」の電話番号を探し出し、一日2500円という激安の部屋を予約してくれた。
そうと決まればいつまでもクヨクヨしてられない。
暇人得意の宴会を始めなければならん!まずは酒が足りん!と、同じストアーを行ったり来たりと楽しい温泉宴会の準備を整えて噂に名高い後生掛温泉に到着した。
近づく前からあふれ出る硫黄の臭いが強烈に温泉を印象付け、部屋に通される前の廊下から感じるゆるく温かい地熱エネルギー。


館全体が温泉と言っても過言ではないほどの地熱がじわ〜と身体を包んで来る。さらに、部屋の床面が地熱を利用したオンドルになっているのだ。
夏真っ盛りの八月にオンドル部屋なんてとも思いがちだが、夜は寒く昼でも気持ちいいくらいの温かさで体がほぐれて行くのだから不思議だ。
時より強くなる風を窓から入れながら、なにはともあれビールのプルタップを勢いよく開け、下半身をオンドルで温めながら一気に流し込んだ。
3本程一気に呑んだ頃からだろうか?二人とも温泉が気になりだし、タオル一枚首に巻いて意気揚々とスリッパをペタペタ鳴らしながら泥湯で有名な後生掛温泉を味わうべく廊下を歩いて行った。どこからか鼻歌でも聞こえて来そうな雰囲気を感じながら浴場に入ると、歴史を感じさせる黒ずんだ木造の天井がとても高く素晴らしい雰囲気であった。
湯はまさに泥だったが、清潔感のあるグレーの色をたっぷりと蓄えながら硫黄の臭いを放っている。

明日こそは入渓!と願って3時に起きようと二人で決めていたので、焼酎とビールと泥湯を何度か往復して体をほぐしながら22時には横になった。
天気予報は18時から曇り、明日は晴れの予報。しかし窓を叩く音が小さくなる気配は感じられなかった。

 

一秒の狂いもなく起きだし騒ぎまくる目覚ましに無理やり起こされる。
横を見ると起きる気配を見せない寝顔が一つ転がっていたので一人静かに浴場へ向かった。
変わらない硫黄の臭いと薄暗い廊下の中、うしろの方で鳴り出した目覚ましの音が20秒程で止まった。松村さんが起きたのだろうか?
朝3時半の浴場は貸し切りで外の露天が目覚ましにはちょうど良い雰囲気だった。
どうやら雨は止んでいるのか?いや?ちょっと降っているか?一抹の不安を抱えながら部屋に戻ると松村さんはまだ寝ていた。

薄くまぶたを開けるように明るくなる空模様に希望を抱きながら、昨日の内に確認しておいた入渓点へ向かった。
どうやら吐き出すものを全て吐き出した様子の川は、穏やかさを色で表現しながら海の方向へ向かっていた。
思わず二人で笑顔を交わす。
雲はシマウマ模様が流れるように、少しの雨と少しの明るさを交互に表わしながら確実に晴天へと向かっている。

装備を慎重に整え、ザックの重さを確かめながら入渓。
今回は八幡平側の源流から水線を伝い、尾根を越えて向こうの源流へ直接入るルートを取った。


東北の山は低く、多種多様の植物が所狭しと生存競争を繰り広げる営みが山全体を包んでいる。その密集率は想像を遥かに凌駕し、我々の前進を拒むような壁となって現れ始めた。
小さな流れを見つけては藪から逃げ、隙間を見つけては藪に飛び込み稜線を目指す。


時には時速50mという超ロースピードで二人重なって藪をかき分けながら進まなければならない箇所も多く、雪山で言えば豪雪後のラッセルに近い状態である。
3時間程経過した頃に突然源頭のお花畑が現れた。束の間の天国に感じられる。しかし上を見上げると地獄の大藪壁が稜線まで伸びている。
くじけそうな心にムチを打ち、息を整え再度突入する。
二人でラッセルを交代しながら斜度のきつい大藪林を抜け、4時間かけて稜線に立った。
稜線に立って見ると、登山道の左右からひしめき合って向かい合う藪の壁。
逆側の山斜面に突入するために少しでも入りやすそうな隙間を探すが、どこも変わらないように見える。
なるべく低い藪を探して再突入。沢筋だけ見つけられれば後は夢の大深沢までまっしぐらだ。
ネマガリダケの藪林は生えている方向によってラッセルの大変さが全然違った。進行方向に生えている藪林では体重を乗せてズンズン進める。逆方向の場合は地獄である。
山での最高嗜好品であるビールをたっぷり積んだザックが藪になぶられながら左右に揺れ肩に食い込む。
下降を始めてから2時間。ようやく三俣の出合いに到着した。

三俣に快適そうなテン場を見つけ今宵の宿と決め込んだが、タープを張ろうとした瞬間に風に乗って鼻を突く懐かしい臭いがした。
うん?俺のよりちょっと濃い臭いがどこからか??うん?と横を向いた瞬間に見慣れた色が飛び込んで来た。
こ、これは!?テ、テン場に!?
世の中いろんな人がいるとは分かっているのだが、まさかベットルームを厠代わりに使用する人がいるとは俺もまだまだ世の中の厳しさを、、、、。
さっそく松村さんと協議を重ねた結果しかたなくテン場を移す事にした。
目指すはナイヤガラの滝を下降して大深沢出合いのテン場。約一時間の距離である。
もう残り少ない体力を振り絞り、少しでもザックを軽くする為に1本づつビールを飲み干し再出発。
三俣のテン場がとても快適そうなテン場だっただけに、とても残念なマナーの持ち主に少々の腹立ちを覚えた。その腹立ちがザックの重さで消える頃にパワフルな音と共に視界がプッツリ切れる景色が現れる。ナイヤガラの滝だ。
4階建てマンション程の高さを持ち、幅30mはあるだろうと思われるナイヤガラの滝は、一枚岩を波打たせながら三俣から集められた水量を一気に放出する。
そんな大自然の景色にはただただ圧倒されるばかりだ。


ここまで来なければ絶対に見る事ができない風景とパワー。これが大深沢なのだ!これが冒険なのだ!
松村さんが早速下降ルートを探し出し、慎重にシャワーダウンする。
下から見上げるナイヤガラはとても長い歴史が感じられた。

大深沢出合いのテン場に到着したのが3時。その日の行動時間は10時間になろうとしていた。
酒とビールを沢に冷やし、薪を集めて、さっそく釣り出かける。

 


この時から藪こぎ中にブヨに刺されたと思われるこめかみがだんだん腫れ上がり、左目がお岩さんになってしまった。
「松村さん、俺今どうなってます?上が見えないんだけど」
「あれー?凄い事になっているね。完全に閉じちゃってるよ」
「ちょっと写真撮っといてもらえますぅ?」
と本人は全然平気である。これも大深沢の洗礼だと思えばなんて事はなかった。


そして目が見えない私は本流、松村さんは大深沢へと分かれて行った。
目も見えないし、テン場からすぐそこ、30m程下流に程良い流れのプールがあったので早速毛ばりを投入してみた。
岩魚がゆっくり毛ばりを咥える。
釣れる。
また毛ばりを投げる。釣れる。
またまた毛ばり投げ。釣れる。
また毛ばり。釣れる。また毛。釣れる。
毛ば。釣れ。毛。釣れ。け。釣れ。けば。釣れ。わーー釣れまくりじゃーーーーー!!!!!
結局私はそこから一歩も動くことなく、約1時間で20尾以上の岩魚が遊んでくれた。
なんっじゃここは?
リリースの度に他の岩魚達が「うん?餌の時間ですか?」てな感じでどんどんどんどん瀬に出てくるのだ。それを片っ端から釣りあげてはリリース。そしてリリースした奴がしばらくするとまた出てくる。なんだか不思議な気持ちになりテン場を振り返ると松村さんが戻って来ていた。
同じく爆釣であったという。しかし釣れる岩魚は全て20センチ前後、25センチ以上じゃないと食べる気がしない我らはお互いキープゼロ。
釣れる事はわかった。明日こそは美味しい岩魚を釣るぞー!と夢見ながら、持ち込んだ食材を減らす為に焚火を囲み、酒を流しこんだ。
その夜は、大深沢の大量の岩魚に負けないくらいの星がきらめき、焚火の火の子とコラボレーションしていた。

 

今日は晴天だ。こんなに気持ち良くていいだろうか。申し訳ないくらい気持ちがよい。
素晴らしい渓相に晴れ渡る空。これ以上なにが必要なのか?


今日は上流に行ってみようという事になり、7m×30mザイルを背中に仕込み、もはや我らの通勤通路になっているナイヤガラの滝を今日も登る。
この日のナイヤガラは朝日に照らされとても綺麗だった。
パワフルなのにどこかやさしい感じのするナイヤガラ。
ひょんぐり滝のしぶきが朝日に反射して光が踊っているような錯覚を覚えた。
そんな深い谷に住んでいる岩魚もとても美しい。お腹がオレンジで斑点が真っ白で、このお腹がオレンジの岩魚はとても美味しい。
大深沢の岩魚は全体的には小型の岩魚だが、時々顔見せる尺上岩魚がありがたかった。


この日は4尾ほど良い型がキープ出来たので豪華な夕食となった。
初めて作った岩魚のなめろうがとても美味しかったので、これは今後の定番にしようと思う。

 

今日も晴天。またまた気持ちがいい〜。


昨日から沢屋が増えて来たし、帰りの事を考えて昨日の内に見つけといた上流のテン場に移動する事にした。
今日も同じく我らの通勤道になっているナイヤガラ。今日のナイヤガラも実に美しい。
ある程度軽くなった大きなザックを背負い今日もナイヤガラをシャワークライムする。
今日のナイヤガラは水量が安定しやさしさが混じった美しさだ。
ナイヤガラを登りきると上流から焚火の臭いが風に運ばれて来た。
我々が放棄した厠テン場に5人組の沢屋が朝飯を作っていたのだ。
軽い挨拶と情報を交換し、そこからほど近い最高のテン場に荷物を広げておにぎりを頬張り、お弁当を入れて、今日も楽しい釣りに出かける。
「今日は沢屋も多いので釣りにならないかもな〜ぁ」と思いきや、大深沢はそんな器の小さい沢ではなかった。
大深沢は人が歩こうが、泳ごうが、岩魚は釣れるのだ。ただ小型が多いのがここの特徴だが。

我々が入った沢にも4人組の沢屋が追いついて来ていた。
彼らは我々の邪魔にならぬように距離空けてゆっくりと遡行してくる。
なんとなく申し訳なくなり「お先にどうぞー」と道を譲ってあげた。
午後一にはテン場に戻り、気持ちいい沢風と温かい太陽に抱かれてイビキを鳴らし、夕方また食糧調達に別の沢に入った。
いつも通りの爆釣。
いつでもどこでも爆釣。


この日はテン場の近くで良い型が釣れたので3尾ほどアミに生かして置き、他の3尾をなめろうと刺身にしてペロリ。
明日の帰りに向けて早めに寝る事にする。
生かした3尾は結局翌朝リリースする事になった。

 

今日はとっても残念ながら帰る日だ。しかも天気が良い。
ブヨに刺された目もだいぶ良くなり、身体も軽く、ザックも軽い。
朝6時までに朝食も済み、早速出発。
来た時と同じ沢を詰めて大藪林に突入し、源頭から稜線へと抜けた直後に逆の山にダイブ!
藪漕ぎもだいぶ慣れて来たのだろうか?二人で力を合わせてガシガシ進み、車止めに11時に着けた。
なんとなく藪漕ぎの極意がわかった気がする。
これは暇人会技術伝承の一つに入れてもらわなければと思った。

帰りに寄った松川温泉の湯は、湯の花が透明のお湯を真っ白に見せ、汗が止まらない良い温泉だった。
松村さんはその温泉パワーでぶっ通し運転を達成し、まだまだ行けると元気いっぱいだった。


多少の渋滞はあったが、到着後近くのホルモン焼き屋で生ビールを流し込みながら5日間の思い出話に花を咲かせて、電車でウトウトしながらお家に着けた。

 

大深沢はとても遠く、そして深い。
なにより、俺より誰より伸び伸びしているものすごい藪林、大藪、鬼藪、馬鹿藪が大量の岩魚達を守ってくれているのだろう。
毎年は行けないだろうが、2~3年毎に行きたい。
必ずまたチャレンジしたい沢ランキングの上位に食い込んだ沢だった。


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