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■2010/07/17〜19

笠堀川支流大川

鈴木(L) 、石島 、 金田 (記)

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「ジメジメと、肌をなでなで、初夏の梅雨」
が明け切るかの瀬戸際に、「レベル5」の文字が強い自己主張で書き込まれている大川へ初挑戦と意気込んでみた。
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泳ぎが主体の沢で、ところにより潜りがあるらしい。
沢で潜る事なんて考えた事もなかったが、なんのことだろうか?


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早朝4時、笠堀ダム駐車場在住の集団藪蚊の洗礼に耐え切れず出発を早める頃に、何台かの車が続々と集まって来た。
笠堀ダムからは「光来出沢」、「大川」、「砥沢」の3本の支流に入渓でき、その3本共に沢レベル4から5と強気の数字を掲げているだけあって、沢屋を中心とした様々な会の人達ばかりであった。

久々にお会いする他会の方々と軽い挨拶と遡行予定を確認し合い、軽い足取りで蚊軍団に吸われたばかりの腕をポリポリしながら初日の目的地「大川と小又川の出合い」に向けて出発する。
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ダム湖を右に見ながらクモの巣とヤブに覆われた狭い踏み跡をたどり何か所かの小沢を通り過ぎた頃、見覚えのあるニョロニョロ君が足回りに張り付いているのを発見した。
会の先輩たちの話では居るはずがないニョロニョロ君だったが、現に今ここでニョロニョロしているではないか!?
それも1ニョロや2ニョロではなく、3人でスパッツをはがし確認し合うまでもないくらいすんごいニョロニョロニョロニョロしているのである。
幸い石島が「ヤマヒルファイター」という心強い武器を持っていたおかげで「ひー!」「あー!」「うわー!」と半べそ掻きながらなんとかニョロニョロとの戦いに勝利の兆しを見たのである。
それからは小沢がある度にスピードを上げて通過するなんともひ弱な沢レベル5に挑む我々である。


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巻き道のような登山道を3時間くらい歩いた頃から岩肌を露出した山肌のトラバースにはいる。
心配されていた梅雨がちょうどあけるタイミングだったので、照りつける太陽に頭はくらくら水分はカラカラで、岩肌をぬるく流れる水場で一休みしながら遥か下のエメラルドグリーンの流れを眺めてみると、4名の沢登りパーティーがゴルジュ突破を試みて泳ぎに入るところだった。
この暑さなら水線も良かったかもと考えながらさらに1時間で光来出沢との出会いに着く。
そしてここでまで生きのびたニョロニョロ君数匹とも残念ながらサヨナラだ。敵ながらあっぱれである。
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登山道は光来出沢の奥まで続くようだが、途中のルンゼから懸垂で下降し大川へ入る。


ちょうどその頃、上から見えていた4名の沢登りパーティーと出会い、内2名が女性である事に驚きながら彼らを光来出沢へ見送り、そしてまだ生き残っていた元気いっぱいのニョロニョロ君とも「もうっ!」との掛け声でご臨終してもらう。
さすがの好敵手である、そのしつこさとストーキング技術はCIAを遥かに凌駕すると納得する。H13の称号を与えたい。
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大川出合いには左岸に大きく積まれた砂地があり、天候さえ良ければ最高のテン場になりそうな場所があった。
その快適そうな砂地を見送り右岸の崩れたコンクリートの階段を途中まで登り巻き道に入ると、道はたちまち不明瞭になり大川最初の滝「音滝」の轟音を頼りに進む事になる。
その音滝を懸垂下降で越す頃からリーダーである一夫さんからしきりに「水量が多い」とのつぶやき。そのつぶやく心配は正しく的中し、下降してすぐの渡渉が困難なほどに白いしぶきを吹き出しながらマッハ32のスピードで足元をすくっていく大川の大水に何度も空身の飛び込みやザイルワークを強いられた。


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息も上がり、石島の足が何度目かのこむらがえしで反抗期を迎えた頃、30m先に小柄なカモシカ君が右往左往しながら渡渉を試みていたが、何度かの勇敢な挑戦の後「チッ」とでも言いたげに渡渉をあきらめ早足で斜面を引き返して行った。
一夫さんのつぶやきにカモシカ君の同意も加えてやはり水量が多いという事は決定的となったが、それでも少しの希望を持って冷たく静かに流れるゴルジュを何度も泳ぎ進むと、幅2mほどに狭まる谷にいっぱいの水を流すいやらしいゴルジュに辿りついた。
まず第一の核心部である。


飛び込み泳ぐがまったく前に進まない。それどころかホールドがなくスカイフックもかからないいやらしさ。
2度のトライで体は故障したかのような震えが止まらなかった。
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暗く、狭いゴルジュで男3名は考え込む。こここそ「潜る」という裏技の出番だろうと。
この水量でのミッションは、頭から飛び込み勢いに乗った状態で一気に沢底の岩にしがみ付く、そして岩を頼りに前進するという「何してんですか?」と突っ込みが入りそうな方法しかないのだ。
しかし時間は2時を少し過ぎたところで余裕はあったが、先ほどから轟音を鳴り響かせる雷が止まないのである。


問題はこのゴルジュだけではなく、ここを突破し先に進んだとしても大川最大の難所であるワシガ沢出合いを超える頃まで天気が持つか?そのあともさらに続くゴルジュで雷雨にあったらダメージの大きさは容易に考えつく。
その答えは5メートル上に真横の形でがっちりとはまっていた一本の太い木がしっかりと伝えていた。
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撤退、、、、。
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しっかりと大川の力強さを確認した撤退であったと思う。
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ビバーク地として選んだ場所は、光来出沢と大川出合いの砂地で盛られた場所だ。ここからだと泳ぎ下って1時間だろう。
轟音の雷に尻を叩かれるように追い立てられ、流れる水と降る水の両方に浸かりながらテン場を確保し、エスケープとして崖にフィックスロープを二本確保する頃から雷雨は本気モードに突入し、あれよあれよと大川が溢れ、テン場の砂地が1/3削られた。


我々は申し訳なさそうにそそくさとタープを撤収し、光来出沢の出水に備えて再度場所を確保しビールで乾杯する。
こうなったら大川の増水がなんぼのもんじゃと酒の肴にするしかないのである。
そして時間差を置き光来出沢からの増水が始まった。
ゴルジュで形成されている大川からマッハ69ほどのスピードで吐きだされているまっ茶な増水に見事に合体し、約2mほど一気に水位が上がった。
この絶妙なコンビネーションにテン場の砂地は2/3が削られどこかへ消えてしまった。
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あの場所での撤退は正確に正解だったと全員がうなずき、またまたビールで乾杯する。
それからも断片的に続く雷雨にハラハラドキドキしながら焚き火を起こし、少しの酒で体を温めて今日のところはこの辺で勘弁してやるのである。
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翌朝、昨日の雷雨がウソのような陽気だったが、テン場の砂地に増水の爪痕はくっきりと見て取れた。
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とりあえずリベンジである。
もうこの時点で対岸の階段への渡渉が困難であったが、とりあえずリベンジである。
ここでやめたら男が廃るのである。
見るだけ見てやろうじゃないのと巻き道を超え、音滝を超え、懸垂で下りようとしたその下は、、、、マッハ98くらいのスピードで流れる大川の水とその5メーター上に見事なまでに挟まっている一本の木が絶妙なエクスキューズを投げていた。
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敗退、、、。
レベル5の自己主張はダテではなかったのである。
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我々3名は山岳源流釣り師として、沢山の妄想と想像をパンパンに膨らませ、再度リベンジする事を誓いあっぱれ大川を後にしたのである。
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ゴルジュ
フランス語の語源で「のど」の意味。切り立った岩壁にはさまれた峡谷。
大川のゴルジュはまさに、人を寄せ付けない深山幽谷への入り口であった。


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