'03/08/11〜12 三重泉釣行


'03/08/11〜12 全日本暇人協会
新発田 悟(L)
大沢 健二
齋藤 健郎(記)



「要するに・・・源流って・・・?」

 里に戻ってくれば、次の日は仕事である。その「翌日の仕事」がブルー・・・現実に引き戻される・・胸が張り裂けそうな切ない気持ちなのである。もちろ ん、「源流・山・渓」がそんなにイイ所?と問われれば、「・・・?」と、答えにならない。実際、山登りは辛いし、ザックは重く肩にのしかかる。時には紙一 重の危険な状況に出くわす事もしばしば・・・肝心の「釣り」はど〜なのか? 源流だからいつもパラダイス・・という図式は成り立たない。釣りは「日より」 だし、場所によっては源流とはいえ先行者を気にする事だってある。有名なところになればなおさらだ。
 でも、だから・・「要するに・・・源流って・・・?」何なの?

 梅雨明けが遅かった今年、8/11〜12と利根川水系片品川支流の泙川支流・三重泉沢への釣行を計画した。
 前々日に大型台風10号が通過したばかりなので、水量が心配であったが、とにかく現場まで・・「なんとかなるよ・・・」で、高速を飛ばした。メンバーは 自分(齋藤)・大沢・新発田の三人である。6月の釣行記に記載されている通り、新発田氏は坂本会員と共に、すでに達成出来ている沢である。僕にとっては初 めての沢で、その状況を聞き、「沢登り」のトレーニングのつもりでのトライだ。沢通しの「泳ぎ」「高巻き」「懸垂」「滝のぼり」のフルコースが体験出きれ ばいい練習になる・・・つもりであった。

 つもりであった・・・というのも、その2日前に関東を通過した例の「台風10号」の影響は大きく、予想を遙かに超える水量であった。だいたい本流・泙川が濁っている、夜が明けぬうちから、沢音が幾分水量を感じさせていた。1.5倍くらいだろうか? 
 暗いうちはまだ甘い考えをもっていたが、明くるなるにつれ状況がつかめてきた。平水の1.5倍どころではない。2.5倍〜3倍くらいはある。林 道が土砂崩れのため、いつもの車止めまで行けない、三重泉沢出会いのちょい手前に車を停め歩くことに、20分程で、三重泉出会いだ。やはり・・・水量は 2.5倍〜3倍くらいはある。「これは危険すぎる・・」と3人の意見は一致。ニグラの尾根越えで三重泉広河原まで出て、とにかく釣りをしよう・・・という 事になった。

 拍子抜けではあった。僕としては現時点で自分のレベルを考えると、結構気合いを入れて「沢通しトライ」のつもりであったから・・・まあ、これはこれで良し、現実問題、らくして目的の場所まで行くわけだから・・
 沢がドブ濁りという訳では無いのだから、「釣りは釣りで期待できる」そう感じていた。

 尾根道は快適・・という程でも無いが概ね問題無い。つづら折りの道は時折わかりづらくなったり、道が消えてしまったり・・・台風後ということもあり、木 がなぎ倒されていたり、枯れ沢が土石流のごとく道をあやふやにしてしまったり・・・ルートのマーキングもなんとなく解りづらい。
 事前情報で、この尾根道は2時間弱で歩ききれる・・とのことであった。我々はニグラ沢出会いからほぼ目標時間で三重泉沢広河原にたどり着くことが出来た。
 広河原に到着すると早速「釣りバカ大沢君」支度を始めている。僕としてはまずテン場で一服してから・・・なんて考えていたのだが、あれよあれよと言う間に竿を出し、ものの30秒で一匹ゲット!しかも尺クラスだ。大きく竿が弧の字を描いている・・・
「ウソだろ?」そんなにパラダイスなのここって?と目を疑った。

 釣り上がってきたのは計ったような「ジャスト尺イワナ」天然種らしい綺麗な尾ビレの魚体である。撮影してとりあえずリリース、そんなシーンを目の当たり にしたから、僕も新発田さんも釣り支度をしてテン場まで釣り上がることにした。フライの僕はただでさえ水量が多いからデカいフライをチョイス、#8のドラ イフライを結んでみた。
 里の川では考えられない大きさだ。もっとも多くの源流では、渇水期はやはりやや小さいフライに分がある。しかし、せっかく源流に来ているのだから僕の場合ドライでもウェットでもとりあえずデカいフライを最初に結ぶ事にしている。

 大石裏の絶好のポイント、流れが巻いて「たるみ」になっている。「さっき・・このポイント、大沢君がミミズを流していたな・・・」でも、「まあイイか・・」
 ドライフライを「たるみ」に打ち込んで待つこと20秒、ゆっくりとイワナが顔を出してきた、フライをかすめて補食出来ていない。心の中でイワナに対し、「ヘタクソ!」と呟く。
 じっと辛抱そのまま待っているともう一度出た・・「今度はフライを喰わえた・・かに見えた」が、ゆっくりアワセたのだが乗らない・・・「まだ出る」と、 確信はしていた。同じポイントにもう一度プレゼンテーション・・〜フライが着水してから魚が出るまでに時間がかかるのは、やはり増水のせいである。魚がフ ライに気が付くまでの「待ち」時間なのだ。このパターンは水量の多いときの典型なのだ。
 〜・・こんどこそ毛針をしっかり食い込んだらしい、慌てずゆっくりアワセると「ゴン!ゴンゴン・・」と、もう〜たまらない引き心地・・・下流を釣っていた大沢君に声をかける。一瞬彼が「さっきそこオレがエサ流した所・・・」とでも言いたげな表情をしているものだから、「してやったり・・・」釣り上げたのは今釣行最大の32cm。やや痩せてはいるものの見事なプロポーションの魚体であった。

 いつもなら・・僕が釣りをした後を彼にケツをまくられっぱなし・・・なものだから、「かなり気分がイイ・・」たまにはいいでしょ・・・?こんな状況も・・・
三人で予定のテン場まで釣り上がる。お互いにそこそこの釣果を上げ、湧き水の旨い絶好のテント場に到着。

 テン場設営が終わればさらに釣り・・・上下流に分かれ思い思いの釣りを存分に楽しんだ。僕は早めに切り上げタープの下で一眠り、若干雨も降ってきた。軽 く一杯飲んで休んでいた。しばらくして二人が戻り夕飯の準備を進める頃、僕も目が覚めた。今回の料理長は新発田氏。今宵のメーンイベント・「見せ場」の源 流パン焼きの準備に取りかかっている。
 源流で「焼きたてのパン」を食す・・・こんな贅沢な・・・「遊び心」に、気韻生動の感銘を受けた・・・
 新発田氏が元パン屋サンとは言え、なかなかマネの出来る物ではない。準備や装備にしても、それを源流まで持って行かなければならないし、イースト菌を発酵させる時間やタイミングだって並の仕事では無い。

 「最高の釣り」「食」、旨い「酒」「渓割り」「気の合う友との語らい・宴」
 これらが全て揃う源流行もなかなかある物では無い。言い返せばこれが「辛くとも源流に足を運ばせる理由」なのかもしれない・・・

 翌朝・目が覚めるとタープを叩きつけるような「雨」、その音で目が覚めた。僕以外二人はまだ寝ている。
 寝起きの一服、煙草に火をつける。「旨い」最高の空気と、不健康なタバコの煙がミスマッチながらも、ハーモニーを奏でている。その煙に目を覚まし二人が起き出し朝食の準備に取りかかった。

 天気はイマイチだが、一通りの準備をし、米が炊けるまでのしばらくの時間もテン場前を少し釣りをした。開始早々そこそこの型が釣れてきた。まさに「朝飯前の尺イワナ」だ。

 朝飯を済ませると、しばらくノンビリしていたら雨は一応止んでいた。大沢君は上流・二股を目指して釣り上がった、数はとにかく出たとのこと。水量と時間 との関係で予定の場所までは届かなかったが、その釣果に満足の表情をしている。昼過ぎの1時頃にはテン場を後にする。

 自然が相手の遊びだから、いつまでたっても結論は出せ無いが、「いい思い」が出来るかどうかは全て「タイミング」のような気がする。釣りは釣りで、里の 川なら、「こんな条件ではドライだ、ウェットだ」「やれニンフだロングリーダーにナチュラルドリフト」「寒いからミッジだよ」「今はテレストリアルが最高 だね・・イブニングを狙えばどーした・こーした」なんて紹介されているが、どうやら、最も条件の整った源流釣りの前には、それを上回る要素には成りがたい 気がする。もっとも、里の釣りのそれは、そーいった事を考える要素こそが楽しみであり、それを否定するわけではないし、僕自身もそうやって里釣りを楽しん でいる。僕にとって源流釣りはつい何年かの経験だが、それ以前、圧倒的に経験してきた里釣りで体験したことから判断すると・・・〜まあ、釣りへの考え方や スタイルはいろいろな事を経験するたびに変わってきてしまうものだが〜・・・今のところそんな風に思えてならない。もちろん先にも述べた通り、こんな源流 にまで来て「まったく釣れない・・」なんてことはおもいっきり有り得る事だから、一般的に思われている「源流=釣りがイージー」という図式も正解とはいい がたい。

 そして、僕は辛い山登りも、危険な沢登りも「その先に魚がいるから行くのだ・・」と思っている。「釣り」がベースにない山登りはあまり趣味ではない(殆どやらない)その沢の魚止より上を詰める・・という気もあまり無い(もっとも技術もない・・)。

「思い通りの釣り」・「旨い酒と水・食」。そして、辛い時も同じ時間を共有する「友」は最大の信頼関係で結ばれ、里の川でのそれと違い、「誰が誰よりたくさん釣った」とか、「誰かより大きいのを釣り上げた」とか・・そんな小っぽけな事は問題にはならないし、したくもない。(たまに・・言いたくもなるけどネ・笑)
楽しくやれて、それでイイ・・翌日の里での暮らし、仕事に行くのが「ブルー」になるほど・・・「要するに・・・源流って・・・」

記:齋藤 健郎




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